硝子体手術

日帰り網膜硝子体手術

当院では網膜硝子体手術も日帰りで行います。麻酔は球後麻酔で、手術中の眼球運動及び痛みを取り除いてから行います。麻酔薬を注入する際に重さを感じますが、すぐに解除され効果が現れます。
手術は眼球に3箇所、眼内灌流液や機器の出入口を作成し、瞳孔から眼球内部を顕微鏡でのぞきながら行います。
眼球に出入口を作成する際、トロッカーと呼ばれる出入口を留置しますが、太さは直径0.36mmですので、無縫合で終わる事が可能です。
これにより、以前は1mmの太さの入口を作成していた際の縫合にかける時間が短縮され、より負担の少ない手術となります。また、傷口の縮小化は合併症リスクの低減にも大きな効果を発揮しております。
また、以前は角膜にガラスのコンタクトレンズを設置するために縫合して手術をしていましたが、当院は、広角眼底観察システム『Resight』リサイト(Zeiss社製)を使用する事により、眼球内の観察を非侵襲で行う事が可能となっております。院長は、前所属の昭和大学東病院にて、日本第1号機(6台輸入のうちの1台)から常時使用し、取り扱いには精通しております。
(院長自身が施行した年間300例程の硝子体手術全例に使用・未熟児網膜症も同様)

侵襲の少ない硝子体手術は日帰り手術を可能とし、手術を受ける方の社会復帰を早くするメリットがあります。
ただし、当院では安全性に配慮し、重篤な既往症の有る方(心臓病等)、術後点眼がご自身で出来ずご家族の協力を得る事が困難と思われる方、つきましては、お近くの入院手術施設にご紹介させていただきます。

手術を受けるタイミングについて

日帰り網膜硝子体手術どんな疾患なのかによっても異なりますが、硝子体疾患は網膜、特に視力の中心である黄斑との関係も強く、放置すればするだけ視機能が低下してしまいます。そのためできるだけ早いタイミングでの手術が望ましいでしょう。
硝子体手術が必要となる疾患の主なものを、以下に説明します。

網膜剥離

眼科において緊急性の高い疾患です。放置する事により失明します。また、網膜の真ん中(黄斑部)が剥がれる事により、視力回復のチャンスが減少しますので、診断から手術までの時間を空けない様にします。(前所属の昭和大学東病院では、平均2日以内に手術を施行しております。)この病気の病態は、網膜に穴が開き(網膜裂孔)、そこから眼内の水が流入し、網膜が眼球壁から剥がれる病気(裂孔原性網膜剥離)です。穴が開いただけの際は、レーザー治療で対応可能ですが、一旦剥がれてしまうと、手術加療のみが治療法となります。手術には大きく分けて2種類の方法があります。症状、年齢、条件により、最適と思われる方法を選択させていただきます。

1.硝子体手術

眼球内の大きな比重を占めるゼリー状の物質(硝子体)を高速カッターにて切除・吸引し、裂孔の原因となる硝子体の牽引を除去します。
その後、眼内に高密度フィルターを通した空気、もしくは水よりも比重の重い特殊な液体(パーフルオロカーボン)を充填させ、網膜を元の位置に戻し(復位させ)、レーザーを当てて網膜と眼球の壁を癒着させる処理を行います。パーフルオロカーボンは除去し、眼球内を空気で満たし、特殊な気体(SF6もしくはC3F8)を所定量注入し、手術を終了します。眼内の気体が吸収されるまで1〜2週間程は、自宅にて可能な限りうつ伏せの体勢をお願いします。これは、うつ伏せをする事により、剥がれた網膜を気体が眼球の壁に押し付ける事で、レーザーの癒着を正しい位置に作り網膜の復位を完成させるためです。

2.強膜内陥術

眼球の壁(強膜)にシリコン性のロッド(直径3mmの筒状の柔らかい棒)を縫い付け、剥がれた網膜に眼球の壁を近づけます。これにより、眼球内の硝子体の網膜を引っ張る力(牽引)が相殺され、網膜が復位します。網膜の裏側に溜まった網膜下液を、眼球に穴をあけて排液する場合もあります。
必要があれば、眼球内に特殊な気体(SF6)を注入し、1週間程度うつ伏せをしていただく事もあります。
術後、外来にてレーザー治療を行い、裂孔周囲を凝固・瘢痕化させます。

いずれの手術の場合も、術後2週間は激しい運動や仕事は禁止させていただきます。これは、網膜にあてたレーザーが瘢痕・癒着するまでの時間です。また、気体が目の中に入っている限りは、飛行機や新幹線での移動、高所への旅行(御殿場、箱根、富士五湖など)などは、眼球内の気体が膨張し眼圧が急上昇するため、控えていただきます。
院長の前所属の昭和大学東病院での、上記2種類の手術の初回復位率はいずれも95%であり(平成23〜25年の過去3年間)、全国的な平均初回復位率(85〜90%)を上回っております。しかし、これに甘んずることなく、難症例を克服し、100%に近づく努力は怠らないよう、研鑽に務めていきます。

黄斑前膜

物が歪んで見える状態(歪視)になり、視力低下を引き起こす疾患の一つです。網膜の中心部で、物を見る中心(黄斑部)は、視力の大半を担う(中心視力)役割があります。この部位が障害されると、見たい物が見にくい状況となり、日常生活に不便を感じるまでになります。
黄斑前膜は、文字通り、黄斑部に萎縮性の膜が出来る疾患です。これにより、黄斑部は皺(シワ)だらけとなり、眼底に投影される外界の光の情報がうまく脳に伝わらなくなります。
視力低下が中等度以上になった際には、硝子体手術によって一定の硝子体を切除した後に、この膜を剥がします。1〜数枚に重なった膜を特殊な鑷子にて丁寧に剥がします。さらに、これらの膜の足がかりとなる網膜10層の最内層の内境界膜(厚さ5μm)も特殊な染色液で染めた後に剥がし、再発を防ぎます。
歪視は術後より徐々に軽減し、視力は、術後平均2ヶ月以降に上昇してきます。網膜という神経膜に対する手術のため、回復には時間を要する事をご理解下さい。

黄斑円孔

物を見る中心が暗く抜けて、視力低下を引き起こす疾患です。多くの場合、加齢によって硝子体が液化、収縮して、物を見る中心部(黄斑部)に癒着していた硝子体に引っ張られ穴が開いてしまいます。これを黄斑円孔といいます。
穴が開いてしまった、もしくは開きかけている状態(偽黄斑円孔)に対して、硝子体手術は適応となります。充分に硝子体を切除した後に、網膜表面を特殊な染色液で染め、網膜10層の最内層の基底膜である内境界膜(厚さ5μm)を剥がします。網膜に充分な進展性が出来たところで、眼球内に高密度フィルターを通した空気を注入し終了とします。この空気の力で網膜を伸ばし、開存した穴を閉鎖する方向に作用させます。しかし、開存した穴が或る一定以上の大きさの場合には、閉鎖率は下がります。このような事態が予想される際には、長期残留ガス(SF6)を使用したり、特殊な手術方法を選択して対応します。いずれも網膜という神経膜に対する手術のため、回復には時間を要する事をご理解下さい。院長の円孔閉鎖率はすべてを含め90%強であり、全国の平均円孔閉鎖率を上回っていると自負しております。
しかし、閉鎖できない症例もあった事は事実として受け止め、更なる研鑽に努めます。

糖尿病網膜症

日本における失明原因の第2位が糖尿病網膜症です。ちなみに第一位は緑内障です。しかし、糖尿病網膜症が進行すると、続発緑内障になる事も考えると、やはりこの上位2つの疾患は早期治療が大切だと思われます。
糖尿病網膜症は、多彩な症状を呈します。目の中が血だらけになる硝子体出血、網膜を牽引して網膜剥離を引き起こす増殖硝子体網膜症、網膜の中心に浮腫を引き起こす黄斑浮腫、高血糖が血管収縮を引き起こし、十分な血流が確保できないために新生血管が生じ(目の中の新生血管は百害あって一利無し)、血管新生緑内障(難治性)となる等、治療に苦慮する事の多い疾患です。
手術の最大の目的は、失明しないための治療をすることです。そのために、眼内の出血を除去、増殖膜を除去、時には数千発のレーザーを眼内にあてる等、硝子体手術による治療のための侵襲が大きいのが特徴です。そのため、期待しているより視力が出にくい状況も多く、このような経過を避けるには、血糖コントロールが重要です。また、手術後も血糖コントロールがつかない場合は、更に視力が低下していくだけです。当院では、可能な限りの手術で、失明を防ぐよう努力します。院長が、カリフォルニア大学で、緑内障及び網膜硝子体手術の両方の研修に重点を置いた理由は、糖尿病網膜症に代表される増殖硝子体網膜症による失明をいかに下げるかに焦点をあてたためです。
しかし、手術を受ける御本人の血糖コントロールの努力が一番重要です。

硝子体出血

何らかの原因で、目の中が血だらけになる状態です。そのため、視力低下というよりは、世界が暗くなる状況になります。この原因として多いのは、網膜に穴が開く網膜裂孔による血管の断裂、網膜中心静脈閉塞症(眼底出血)、糖尿病網膜症、後部硝子体剥離(いわゆる飛蚊症の原因の一つ)に伴う血管の破綻等です。当院では、可能な限り手術で硝子体出血を除去し、原因疾患を同定する事で次の治療のタイミングに遅れを取らないよう対処させていただきます。治療の遅れは原因疾患の増悪に繋がり、難治性の増殖硝子体網膜症に移行する事によって、失明の危機に陥ります。また、古い硝子体出血は、眼内で器質化が進み(非常に固くなる)、手術の際の合併症の確率を上昇させる事も考慮にいれ、患者さんのご都合の許す限り早めの手術をお勧めします。

手術による合併症

共通する合併症

疾患に関わらず硝子体手術によって起こる可能性がある合併症です。

裂孔原性網膜剥離

稀なケースではありますが、硝子体と網膜の癒着が強い場合、硝子体を除去するさいに、網膜が引っ張られて小さな孔が開いてしまうことがあります。放置すれば網膜剥離につながりますので、孔の周囲をレーザーで焼き固めて剥離を防ぎます。
近年の術創の小さい術式ではほとんど起こらなくなっています。

術後眼圧上昇

これも稀なケースですが、術後に眼圧が上昇してしまうことがあります。緑内障用の点眼薬によってほとんどはコントロールできますが、緑内障手術を行う必要が出ることもあります。
この症状は、もともと緑内障をもっている方に起こりやすいものです。

術後眼内炎

手術は最新の設備で最新の注意をもって行っています。また技術の発達により、切開創も最小限に抑えられるようになったことで、術後、感染症をおこす可能性は大幅に低下しました。
また、術前・術後に抗菌薬の点眼などで感染症を抑えてはいますが、稀に耐性菌による感染症による眼内炎を起こすことがあります。もし眼内炎が起こったら、できるだけ早く治療する必要がありますので、術後3日を過ぎた後、急に目が痛んだり、白目が充血してきたといった症状がでたら、すぐにご来院ください。

駆出性出血

網膜の外側を包む脈絡膜は、網膜に栄養を届けるために、多くの血管が集まっています。まれにこの部分の血管が破れ、大量出血を起こすことがあります。この場合、さらに外側の強膜から切開し溜まってしまった血液を除去します。
この症状も近年きわめて稀です。

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