硝子体注射
網膜周辺の血管が障害され、血流が滞ってしまうことから起こる新生血管の増殖には、近年の研究でVEGF(血管内皮増殖因子)が大きく関わっていることがとわかってきました。
このVEGFの働きを抑える、抗VEGF薬を硝子体内に直接注射することで、新生血管の増殖を抑えるものが硝子体注射で、最近になって網膜周辺の増殖新生血管に対する有効な治療方法として、よく行われるようになりました。
現在、国内で硝子体注射に用いられるために承認されている抗VEGF薬には、アイリーア、ルセンティスなどがあります。
注射による新生血管の増殖抑制効果は高いものの、経年によって再度進行してしまうケースもあります。そのため、治療後も引き続き、定期的な検査と経過観察を行ってください。
また、ごく稀にではありますが、注射痕から感染し眼内炎を起こすことがあります。治療時に抗菌に対して徹底的に消毒を行いますが、指示を守って治療後にも点眼をしていただく必要があります。
アイリーア
アイリーアは承認されている抗VEGF薬のなかでも、最も働きの強いものです。視神経の集まる中心窩の部分に脈絡膜新生血管が生じる加齢黄斑変性症や糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症などによる黄斑浮腫、強度近視に使用することが多い薬です。
対象となる疾患によっても違いますが、基本的には症状がおさまるまで、月に1度ずつ硝子体注射を行い、その後は経過観察しながら必要に応じて追加注射をしていくことになります。
ルセンティス
ルセンティスも、アイリーアと同様加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症からくる黄斑浮腫、強度近視による脈絡膜新生血管などの治療に用います。
アイリーアよりも若干効果が弱いといわれていますが、どちらの薬を用いるかは病状次第のところがあり、医師による適切な判断が必要となります。
最初の3か月は毎月1回注射を行い、その後は病状次第で追加注射をしていくことになります。
アイリーア、ルセンティスともに加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、強度近視の治療に使用する場合、健康保険適用となります。
術後の注意点
ごく稀に注射痕からの感染による眼内炎を起こすことがあります。発症率は0.05%程度といわれていますが、万全を期すために、注射前には麻酔薬とともに消毒薬も点眼して、予防に努めています。
術後の感染もあり得ますので、施術翌日から抗菌薬などの点眼を医師の指示通りに行ってください。
なお、注射当日は眼帯を使用し、当日は洗顔・洗髪は控えてください。翌日からは洗顔・洗髪ともに可能です。
経過観察のため、翌日はご来院のうえ診察を受けてください。
光凝固術
特殊な波長のレーザー光を眼底に照射し、障害された網膜を焼き固めてしまうのがレーザー光凝固術です。焼き固めた網膜の細胞は元に戻ることはありませんので、黄斑部以外の網膜部分に使用することになります。
糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、中心性漿液性脈絡膜症、網膜裂孔など網膜疾患に対する治療方法として行われています。
網膜膜裂孔や網膜格子状変性への処置
網膜に孔が開いてしまう網膜裂孔や網膜の一部の組織が痛んで薄くなり、血管が格子状に見えるほどになる網膜格子状変性などは、放置すると病変部分から網膜剥離を起こす可能性が高くなります。
そのため、孔の開いた部分や薄く病変した部分をレーザー光で焼き固め、網膜剥離に至らないように処置を行います。
網膜周辺部への治療であり、視機能の中心である黄斑部にこの処置は行えません。
糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症への処置
糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症では、網膜へ酸素や栄養を運ぶ血管が詰まってしまい、結果として病的な新生血管が多発し、破れたり内容物がしみ出したりすることになります。それにより、ものを見るための中心部である黄斑にむくみを生じる黄斑浮腫などを引き起こし、視力を大幅に低下させてしまうことになります。
この状態を防ぐために、血管が障害され血流が途絶えた部分にレーザー光を照射して焼き固め、新生血管が増殖することを抑えます。またレーザー光の照射によって黄斑部のむくみを引かせる効果もあるといわれていますが、基本的には失われてしまった機能を回復させるものではなく、現状以上の視力の低下を防ぐものとなります。